タイトル『ウィンクルとティンカーベル』

作 愛飢え男 えみえ

15〜20分ほど


配役 2名


市川 光(イチカワ ヒカル)刑事


誉田 静(ホンダ シズカ)  犯人


☆アドリブ推奨☆

誉田のセリフに、市川の荒げた息をSEとして入れてください。

綺麗な演技でなく、生々しく お願いします。



一人称と名前は 性別不問になっております。



タイトル

「ウィンクルとティンカーベル」



誉田「見つけてくれて、ありがとう」



市川「やっと見つけた」



誉田「いや、嬉しいな。市川光(ひかる)さん」



市川「お前は、誉田静(しずか)」



誉田「あ、そうだ。リップ・ヴァン・ウィンクルの話って知ってます」



市川「なんの話だ」



誉田「彼がね、山に狩りに行ったんですよ。

そこで小人に会ったんです。何ていう名前の小人だったかは忘れましたが

とにかくその小人に会って、ウィンクルは、お酒をごちそうになったんですよ。

そのお酒があまりにもおいしくて、どんどん酔ってしまったんです。

そして、夢を見たんです。

眠りに落ちて。夢を見たんです。

《市川の 荒げた息》

その夢はね、どんな狩りでも許されるという、素晴らしい夢だったんです。

ところがその夢がクライマックスに達した頃、惜しい事に、目が覚めてしまったんですよ。辺りを見渡すと、小人はもういなかった。

森の様子も少し変わってた。

ウィンクルは慌てて妻に会う為に、村へ戻ったんです。ところが、妻はとっくの昔に死んでたんです。《市川の荒げた息》

村の様子も、全然変わってましてね。

わかります?

つまり、ウィンクルが一眠りしている間に、何十年もの歳月が経っていたんです。おもしろいでしょ?」



市川「何を言っている」



誉田「そのお酒は、ラム、コァントロ、それにレモンジュースを少々、シェイクするんです。

わかりますか」



市川「……」



誉田「XYZ・・・そう、これで終わりって、お酒。あなたが私を見つけてくれたから、これで最後です。」



市川「そうだな、これで終わりだな」



誉田「では、これから逃げますが、まだ終えますか?」



市川「逃すかよ、逃してたまるか」

《追いかける》



誉田「んふっふっふっ、はっはっはっはっ。まるで、『ライ麦畑で捕まえて』みたいだ」

《逃げる》


市川「はぁはぁ、ふざけるな、せいぜい、ネバーランドがいいところだろ」



誉田「たしか、原作のジェームス・パリーは、ジョージ5世から男爵の爵位をーー」



市川「お前は、大人になってしまった子供だよ。」



誉田「通りゃんせ 通りゃんせ。ここはどこの 細道じゃ、天神さまの 細道じゃ

ちっと通して 下しゃんせ、御用のないもの 通しゃせぬ、この子の七つの お祝いに

お札を納めに まいります。《市川の荒げた息》

行きはよいよい 帰りはこわい。

こわいながらも、通りゃんせ 通りゃんせ」



市川「通りゃんなぁ…………ここが、おまえの最後の遊び場になる」《怪我を負って息も絶え絶え》



誉田「こんなビルの屋上まで追い詰められちゃいましたね。」



市川「んっっ」(傷口から出血)



誉田「車で轢き殺そうとしても、バールで殴っても、それでも追いかけてくる。やっぱり、あなたは、かっこいいですよ」



市川「もう十分に楽しんだだろ。」



誉田「奥歯の欠損、肩の亜脱臼、筋肉の断裂が数カ所と、擦過傷ってところですかね」



市川「おまえに……家族と子供を殺され、仲間も………死んでも死にきれるか……」



誉田「私は生きろって呪いをかけられてる人が好きなんです。

愛する人や最愛の友が、最期に残す言葉を無下には出来ないって。

生きていたくないのに天寿を全うするまで死ねない人が好きなんです。

死ぬ理由、死にたい理由の方が多いじゃないですか。

だから、生きていて欲しいと言う祈りや願いが呪いになる。

葛藤の中で、もがき苦しみ、生きる理由は、それだけ、ただそれだけ。

何も見つからない。

さて、生きながら死んでいくか、死にながら生きていくか、どちらが良いですか?どちらにしたいですか」



市川「呪い?願い?祈り?笑わせるな。

どれも願い下げだ。」

(摑みかかる)



誉田「まだ、動けるんですね、愛って怖いな」(バールで頭を殴打)



市川「んんんんんんんんっ………」

(意地でも叫ばない。)



誉田「パンドラの箱はね、数多くの厄災が出たあと、最後に希望がで出てきますよね。

あれは、希望が一番の厄災だからなんですよ。

どんな絶望の中でも一縷の光があると、それに縋りつく。

ほら、地獄で蜘蛛の糸が垂れ下がるって話と同じですよ。

希望があるから苦しいんです。

だから、他人から与えられるモノは、祈りも願いも呪いも根元は 同じものなんです」



市川「はぁはぁはぁ……私は、お前を捕まえられなかった。

だが、私が死ねば……ここから飛び降りれば、お前のいう呪いや祈りは、お前に与えられる………一人で孤独になってろ」

(ビルの屋上から飛び降りようとする)



誉田「ダメ、ダメ、ダメ、ダメだよ。

刑事が犯人に追い詰められて、自殺なんて良くない。それは良くないですよね。

私は貴方のファンなんです。

貴方は私を見つけてくれた優秀な刑事。

だから、私は貴方を自殺させたくない。

それに、自殺じゃ かっこ悪い。

ちゃんとヒーローで居てくれないと。

私は貴方を刑事として務めを果たさせたいんです。《市川・くそ、くそ………》

貴方は私を見つけてくれた立派な刑事だから天国に行く、それで私は地獄に落ちる・・・

あの世に行っても、もう私を捕まえることはできない。

だから、貴方を自殺させない。

それに、自殺では殉職にならないですよ。

おめでとう。おめでとう。おめでとうこざいます。

これで、警部補に二階級特進ですね。


(市川を突き落とす)

《市川・誉田ぁぁぁ》


ありがとう、私のヒーロー・・・・。」



(飛び降りる)




警察官「本部、こちら武田、通報があった現場に着きました。

市川刑事と、誉田容疑者の死体が折り重なるように・・・・・・はい・・・・」




おわり。