【 原案あさみ さんに譲渡


愛飢え男 バージョン


葛葉シリーズ

タイトル【わらべ唄】

モノノ怪のアレンジ台本


脚・愛飢え男 

(第4稿)



比率:2・2・2

時間は30分ほど。


役は7人台本ですが、兼役で3〜4人でも可能。

若旦那、始末屋、番頭、童は兼ね役できます。

葛葉は、一人称が【私】なので 男女 どちらでも。



☆設定・明治時代 明治30年。


【葛葉(くずのは)】探偵・便利屋

安倍晴明の母方の姓

倒幕により、陰陽(おんみょう)などが憲法により禁止されるが、表沙汰には出来ないが、国や警察でも手に負えない事件を受け会うことがある。


【女】・着物屋へ奉公に出ていたが、若旦那と情事になり、子供を身籠もる。


【大女将】・若い頃は女郎で 花魁まで登り詰めて、引退の前後に明治維新になり、動乱に巻き込まれ店主不在となり、引き継ぐ事になる。


【番頭】大女将と宿を支える最古参


【若旦那(冒頭の依頼人)】呉服屋の4代目


【始末屋】剣の腕よりも、追跡、捜索の能力が高いので、殺し方は上手くはない。


【童(わらべ)】座敷わらし、水子となりながらも母を守ろうとしているが、呪縛され荒れ狂っている。



〜ワード説明〜

【殺生石】・負けた九尾の狐が逃げ込んだ先で岩石に化けたもの。

のちに玄翁(ゲンノウ)と言う者に、石化した殺生石を砕かれる。玄翁(金槌)の語源になる人物。


【藤田五郎】壬生浪士組 斎藤一

明治30年頃、70歳。



葛葉シリーズ

タイトル【わらべ唄】




〜序章〜


【葛葉】うちは探偵ですので、その手の事はやってないんですが。


【男】なので、人探しならぬ、物の怪を探して欲しいのです。

家捜がわかれば、この明治の世。

古今東西の伝奇や伝承とかありますからねぇ、退治の仕方なんて、そこに書いてありますからねぇ。


【葛葉】それでは、その文献なり、伝記なりで家捜を探せば、いいんじゃないですか?



【男】まぁ、そうなんだけど、これが。まったく分からない。

読めば読むほど、わからない。

そもそも、なんの物の怪かもわからい。

そこで、ここにきた次第なんです。



【葛葉】犬、猫を探すわけじゃないんですから。

ほら、江戸から明治に変わって、もう30年も経とうしてて世の中、変わって来てるのに、それでも江戸に拘る人がいまして、暴動だ、テロリズム、諫官とか、敵対する企業の調査とかの依頼で、今、私立探偵や興信所は、それなりに忙しいんですよ。



【男】もちろん、興信所にやってくるのは場違いだと重々、承知していますが、祓い屋、拝み屋、神主、四方八方、手を尽くしてみたんですが。

これがまた、みなさん、何故か・・・・死ぬ。

二度あることは三度ある、三度目の正直とかあるでしょ?

どちらにしても、4度目は。



【葛葉】四ぃー五ぉー、ロクでもない事しかない・・・・・か。

って事は、私に死ねと?


【男】探偵さん、あんた、葛葉の一族なんでしょ?

 

【葛葉】はぁ・・・(ため息)


【男】・・そうなんだろ?


【葛葉】葛葉の中でも、屑篭の屑(くず)と、端っこの端(はし)と書いて屑端(くずのは)と呼ばれてる方ですがね。


【男】眉唾だとは思っていたんですが・・・本当にいたんだ。


【葛葉】ほら、明治の3年目に、陰陽(おんみょう)なり、占いなり、何なりと、その手の生業は、近代化の妨げになると言って、政府から禁止令を出された時点で、もう、終わってるんですよ。

だから、その名前は、先々代の葛葉までの話ですよ。


【男】たしか、天社禁止令でしたかね?


【葛葉】そー言うこともありまして、職業としては禁止されてる扱いになってますので、こちらは文明開化に抗わず、こうして興信所を構えて探偵をやってるわけなので、今回は ちょっと申し訳ない。


【男】依頼料、これでも駄目ですか?


【葛葉】大判、小判ねぇ。もう10年前に換金も終わってるで今時、使えませんね。まぁ、でも、総額300万くらいですか。

しかし、これ・・・・


【男】なにか?


【葛葉】この天保大判、もともとは大名への贈答品で、庶民には手に入れられない品ですよ。

それに、この源翁(げんのう) が砕いた石の欠片がね。

チクチクと・・・痛いんですわ。


【男】源翁(げんのう)?


【葛葉】山の神様が殺生石を砕いた石なんですよ。うちとは違う九尾なんですけどね。まぁ形見分けみたいなもんです。


【男】それが、なにか?

大判が どうかしたんですか?


【葛葉】あんた、操られてるだろ?

・・・・あぁ、だから、ここに。


【男】なんの事です?


【葛葉】六根清浄、急急如律令・・・破・喝・命 ・水・王 ・大 ・合 ・行 ・勝 ・天 ・鬼 ・一 ・龍 ・虎


【男】あ・・・あれ・・・・


【葛葉】やはりか。あれは先代の傀儡の札。


【男】あ、あ・・・・あ?


【葛葉】こんにちは。どうかされましたか?


【男】あ・・・どうも。いや、なんか、あれ?


【葛葉】ここは、興信所ですよ、何か御用で?


【男】・・・失礼しました。


【葛葉】ん?・・・・これは手紙?さっきの男が落としたのか・・・宛先は葛葉・・・・・差出人は、藤田五郎・・・いや、斉藤一さんか。


はぁ・・・・こりゃ、断れそうもないな。

今回の一件は、葛葉ではなく、屑端の出番ですか。

まったく・・・面倒な。

しかし、斎藤さんからの手紙なんて、いつ以来なんだろうか。


先代、先々代と 世話になってはいるが・・・

いつもいつも、首の皮一枚、ギリギリな案件ばかりだから困ったもんだ。



〜場面転換〜


【番頭】へい、いらっしゃいませ。


【葛葉】便利屋です


【番頭】うちは間に合ってるよ。


【葛葉】ほぉ、ここが・・・(独り言)


【番頭】そんなところに立たれたら客が寄りつかないよ。

とっと他を当たってくんな。


【大女将】なんだいこんな夜更けに。


【葛葉】雨の夜なので、宿を一晩、お願いしたい。


【大女将】・・・・あらぁ、いい男


【番頭】まぁた来やがった、今日は変なのが多いなぁ



〜土間にて〜


【大女将】でも、高いんだろ?


【葛葉】そりゃ、三角関係の不貞の調査ですから。


【大女将】で、他には?


【葛葉】女将さんが、この宿を?


【大女将】まーねぇ。建物自体は私が娘の時分からあるものさ。


【葛葉】宿にする前は何だったんですか?


【大女将】どうだったかねぇ・・・歳のせいで忘れちまったよ。


【女】ややこや、こんな雨の中で、ごめんね。寒いね。ごめんください。一晩、お願いできませんか。


【番頭】んーー悪いけど、帳場は閉めちゃったんですわ。他を当たっておくれ。


【女】灯りがついてたのは、こちらだけなんです。


【番頭】もう、部屋も埋まってるんだよ。


【女】どこでも かまいせん。この土間だって かまいません。


【葛葉】もしかして、私が最後の?


【大女将】そうだよ、おたくで満室だよ。で、この道具は何に使うんだい?


【女】じつは、私、追われているんです。見つかったら命がありません。


【番頭】ほぉーーずいぶん、大きく出たも・・・ん・・・だね・・・(べっぴんさんで びっくり)


【女】本当なんです。


【番頭】まぁ、こっちも あんたみたいな若くて綺麗で美しいお嬢さんを この雨の中・・・・


【女】・・・・いやな匂いがする。(ボソッと)


【葛葉】もちろん、便利屋ですから、大抵のことは。あ、これは、精力を増進する道具です。

【大女将】あらあらあら・・・


【番頭】・・・けど?


【女】でも、これ以上は、お腹のややこも・・・流れてしまう・・


【番頭】へぇぇ!!あんた、身重なの?


【大女将】あーあ、まったく・・・聞いてらんないね!


【番頭】女将・・・・


【大女将】お前は何年、番頭をやってるんだい!!

申し訳ないが、面倒に巻き込まれるのは ごめんだよ。

さっさと出て行っておくれ。


【女】・・・出て行ったら・・・出て行ったら・・・・・明日の朝には 、表の通りに、私と、お腹の ややこの骸があります・・・そ、そちらの方が・・・そちらの方が ご面倒でございませんか!


【大女将】脅すつもりかい?


【女】脅しなんかじゃ・・ありません!!

私、どうしても!!どうしても!どうしても!

無事に・・・・産みたいんです!!外にいたら、ややこを守りきれない・・・


【大女将】番頭・・・・ちょいと。

・・・ボソッ・・あの子を上の あの部屋に・・・・


【番頭】えぇぇ!!!あの部屋ですかい?


【女】・・・はぁ、はぁ、はぁ。


【大女将】・・・仕方ないだろ。

私が案内するから、お前は布団の用意を頼んだよ。


【女】あの・・・本当・・・ありがとうございます。


【大女将】それじゃ、案内するから、ついておいで。

(最上階へ案内する)



【大女将】この階段を上った先にある部屋で、普段はつかってないのさ。くれぐれも、大人しく頼むよ。


【女】あの、女将さん、どんな物でも構いませんので、少し お腹に入れたいんです。


【大女将】誰の悪戯だい。

壁をこんなにしちまって。

まっ、明日、番頭にでも やらしとこうか・・・握り飯くらいしか作れないよ。


【女】それで構いません・・・・

ボソッ・・・嫌な匂い・・・・・・・ん?


【大女将】ぼぉーと突っ立って、何してんだい?


【女】ふふっ・・・ずいぶん、夜更かしなこと。

ややこ、ちょっと待っててね、おまんま、食べられるからね。


【大女将】そんなに、産みたいもんかねぇ?


【女】はい。


【大女将】どんな事情があるかしらないが、おまえさん、1人で育てていけるのかい?

まっ、若いから仕方ないが、ちょいと甘いよ。


【女】・・・うっ・・


【大女将】飯が食えるわけじゃあるまいし、望まれないのに、食うに困ったらその子は幸せかい?


【女】私が、わたしが望んでいますから。


【大女将】ついたよ、この部屋だよ。

(最上階の部屋へ到着)



【女】ありがとうございます。


【大女将】身重の女は気が強くて、困るねぇ・・・私には、そんな無責任な・・・・

ほら、炉に火をつけたよ。


【女】あったかい・・・・


【大女将】もうすぐ、布団もくるだろう。あ、そうだ。握り飯も用意しないとね。ちょっと用意してくるね。


【女】ありがとう・・ござい・・ます・・・少し眠り・・・・


☆ドタン(ダルマが倒れる音)☆


【女】・・・ん・・・これは達磨?


【葛葉】・・・ボソッ・・・殺生石が、反応してる・・・・


【大女将】あれ?便利屋さん、どうかなさったのかい?


【葛葉】・・・んっ、これは・・(壁を見ての反応)

・・・ちょっと・・・厠に行くのに・・迷っちゃいまして・・・


【大女将】それなら、その廊下を曲がって、すぐだよ。


【葛葉】・・・・それは、どうも。

ところで、女将さん・・・・この上にも泊まれるんで?


【大女将】滅相も無い。ただの物置小屋だよ。


【葛葉】・・・・なるほど。


【大女将】あっ、さっきの話の続き。


【葛葉】いや、明日で、かまいません・・・・では。


【女】あれ?お守り、どこで無くしたんだろう・・・・


【童】それ、返してっ。


【女】・?・・・・あなたどこから・・


【童】返してっ。


【女】ん?


【童】返してよ


【女】あぁ、これ?


【童】返してって、ねえっ。


【女】この達磨、あなたの?


【童】うん。


【女】・・・あぁ、そうなの?ごめんなさいね。


【童】ややこがいるの?


【女】そうよ、あと三月(みつき)もしたら、お腹から出てくるのよ。


【童】嬉しい?


【女】えぇ、もちろん。


【童】ねぇねぇ、あっち行こう。


【女】だめよ、あなた、早く自分の部屋にお帰りな・・い・・

え?・・あれ・・・消え・・・・・・

・・あ・・・いつのまにか眠って・・・



【始末人】・・・やっと見つけた。


【女】どうして、この部屋に!!

二度と、二度とお屋敷には戻りませ、放っておいて。


【始末人】お前、男でも生んでみろ、あとから、のこのこ出てこられたら若様と大旦那様が 困るだろ。


【女】若旦那様とも、きちんとお別れしてきたんです


【始末人】世間知らずの若の言い分なんて、俺には関係ねぇ。(ゆっくりと刀を抜く)


【女】私は、ただ、この子を産みたいだけ、ただ、それだけなの!!!!!


【始末人】ここまで来て、手ぶらじゃ、帰れねぇよ。


【女】ダメ!殺さないで!!

こ、この子が、この子は!!!


【始末人】いい加減に覚悟しろ。


【女】ダメぇぇ!!!

この子は産まれたがってるの!!!!


【始末人】・・・・あれ・・ん・・えぇうぅぅぅ・・・ぇぇぇううぅ・(とり憑かれていく感じ)


【女】この子は・・この子は・

・・・はぁはぁ・・・ん?・・・・・・ひゃっ!?



【始末人】ひひひっ・・・ひぃぃ・・・・あぁぁぁぁ・・・・・(乗っ取られてながら死んでいく)


【女】・・・んっ・・ぅぅ・・・・(気を失ってる)


【葛葉】この札の反応・・・・来たか。


〜部屋に入る〜



【大女将】なんの騒ぎだよ、まったく・・・・


【葛葉】こりゃ、一体・・・・


【大女将】あんた、どうして、ここに?・・・ひっ・・・


【番頭】ひゃ・・・・あんたが やったのかい?


【葛葉】私が?まさか。

・・・しかし、これは・・・アレが守ったのか・・・・だが、この部屋には・・・・・・


【番頭】女将がっ、この部屋には泊めたりするからぁぁ!!


【大女将】番頭、ちょっと、あんた、番所まで走っておいで。


【葛葉】その必要は・・・ありませんよ。


【大女将】必要ないわけないだろ、呼ばれて困るのは下手人だけだよっ。


‪【女】・・うっっ・・・違います・・・この人は、下手人じゃありません、私、見ました。‬


‪【葛葉】ほぉ・・何を・・・見たと。‬


【女】赤い何かに・・巻きつかれて・・・体が折れ曲がっていって・・・・・


【葛葉】ほぉ・・・巻きついた・・


【大女将】便利屋、あんた、本当は、何者なんだい!?

なんで、この部屋にいるんだい。


【葛葉】下手人は・・・人では・・・ありませんよ。


【女】・・・え!?・・・・


【大女将】何のことだい!

それに、なんで、そんな、薄気味悪い 石の欠片を持ってるんだい!


【葛葉】だから、来たんですよ。


【大女将】な、なにを?


【葛葉】・・・・ふぅ・・


【大女将】たわけた事を言ってるんじゃないわよ。


【葛葉】・・・ごらんなさい、この死体を。

こんな事、人間にできわけないでしょ。


【番頭】・・・ぁぁぁぁ


【大女将】・・・たしかに。

あぁぁ!!どうして、その達磨が、ここにあるんだい!!

どこで、それを。


【女】達磨は、ここの部屋ありました。

それで、子供が取りに来て・・・・・ボソッ・・酷い匂い・・・・・・


【大女将】子供?


【女】何人も泊まってるでしょ?


【大女将】何を言ってるんだい、今晩の客に子連れは居ないよ。


【女】じゃ、じゃ、あの走り回る足跡は?

笑い声は?女将さんと歩いてる時にも聞こえたでしょ?


【大女将】・・・なにも?


【女】えっ!?

ほら、今も・・・その辺りで、たくさんの子供達の足音と話し声が・・・・


【大女将】なんだって??


【女】番頭さんのいる辺りからも・・・


【番頭】へぇ?


【女】上からも・・・・


【大女将】何を言ってるだい、ここは最上階だよ・・・


【女】・・・奥からも・・・・あちらからも・・・・


【葛葉】・・・すぐそこまで来ているぞ。

オン・アボキャ・ベイロシャノウ・マカボダラマニ・ハンドマ・ ジンバラ・ハラバリタヤ・ウン・・・・(大日如来 真言)


【童】あぁぁぁぁぁぁぁぁぉぁぁぁぁ・・・・・・ぁぁぁぁぁ・・・・ぁぁぁ・・・・・・・・


【葛葉】ここにいるのは、この屋敷に繋ぎとめられた“モノ”

子供の足音、赤子の声・・・・

そして、羊水の腐った匂い。

アレを成しているのは、あの世の因果に絡まれし この世での縁(えにし)・・これを紐解く必要がある。


【女】・・うっ・・・お腹が・・・ややこや・・・大丈夫だからね・・・


【葛葉】身重の娘と、この屋敷、なにか・・・思い当たる節は、ありませんか?


【大女将】・・・ふんっ・・・


【葛葉】あの死んだ男、知っているのか?


【女】・・・・あの男は、始末屋です。


【葛葉】なにゆえ。


【女】私と、お腹の ややこを殺すため。


【番頭】冗談じゃなかったのかよ・・・


【葛葉】誰が。


【女】大旦那様と大奥様が・・・


【葛葉】どうして。


【女】私と若旦那様との間の ややこだから・・・・


【葛葉】許されぬと。


【女】でも、一度は お許しになられたんです。それが突然、ダメだって・・・・


【大女将】・・・まったく・・バカな子娘だ、ほんとう・・・甘いねぇ。


【女】それで、跡目なんて どうでも良いんです。

私は、わたしは、ただ、この子を産みたいだけなんです!



〜部屋に変化が起きる〜



【番頭】あぁぁぁ、部屋が何か・・・・


【大女将】まったく、ごちゃごちゃと五月蝿いわね・・・揉め事は ごめんだよ・・・(部屋を出ようとする)

この屋敷にナニかあると言うなら出ていけば終わる話じゃないかい。

私は、戻らせてもらうよ!!


【番頭】女将さん・・・ぁぁぁぁぁぁぁぁぉぁぁ・・・


【大女将】・・・ひぃ!!部屋が・・・・・・どこまでも続いている。


【葛葉】これは・・・・

 

【大女将】ひゃぁ!!

なんだい、この地響きは!!! 

どうなってるだい!


【番頭】あぁぁぁぁぁぁぁぁぉぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・今度は・・・・部屋が迫って、壁が迫って・・・来る・・・・・


【大女将】・・・ひぃ!!!


【女】・・・・意識が・・・遠くなっ・・て・・・・


【童】おっかぁ。


【女】・・・ここは・・・・(クンクン)・・・・・この匂い・・臭い・・・

うわぁぁぁぁ!!!

なに、これ・・・・達磨と、お腹が赤い紐で繋がってる・・・・


【男】あははっはっ、ここか?(若い頃の若旦那)


【娘】あっ、あっ、いい。

そこ、いいっ、あっっっっんっっっ・・・あっ・・・・(若い頃の女)


【女】あっ!!ごめんなさい!

いつのまにか・・・・・あ、あの・・・失礼しました。(部屋を出る。とっさのことなので気づいてない)


【童】・・・ニコッ。(んふっ)


【女】・・・・糸が部屋の外まで・・・・・ここは、どこ?



【若旦那】愛してる


【女】あれ・・は・若旦那と私・・・


【若旦那】愛してる、あしているよ


【女】わたしは、使用人ですので・・・。


【若旦那】愛してるんだ。


【女】大旦那様や奥様が お許しになりません。


【若旦那】愛してる・・・・夫婦(めおと)になろう。


【女】え、夫婦(めおと)・・・ですか・・・


【若旦那】どんな事があったって関係ない


【女】ほ・・・本当に?


【若旦那】本当に。お前だけが好きなんだ。


【女】ぁぁ・・・そ、そうなんだ・・・・じゃ・・・教えてあげる・・・私、若旦那様の ややこが お腹の中に。


【若旦那】えっ、そうなんだ・・・・・・


【始末人】どうせ、金持ちなら誰でも良いんだろ?


【女】嫌っっっ、いやぁぁぁぁぁ・・・・嫌・・・イヤァァ!!



【葛葉】幻覚か・・・あいつは・・・たしか・・・・しかし・・・これは手強い。


【大女将】な、なんだい?

今のは?

そ、それより何を悠長な事を、なんとかしておくれよ!


【女】みんなが消えた・・・私だけ・・・なの?


【葛葉】悠長に口を割らないのは、女将さんの方ですよ。


【大女将】・・・こ・・この座敷は・・・く、供養のつもりで・・・


【葛葉】供養とは。


【大女将】せめてもの・・慰めに。


【葛葉】慰めに。


【大女将】この宿は、昔、女郎屋で・・・


【葛葉】この座敷は、女将さん。


【大女将】ここは・・・・始末の間。


‪ 【葛葉】・・・始末


【大女将】壁一面、一つ一つが、ややこの墓なのさ。

人助けだよ、何が悪いんだい。

馬鹿な女だよ、なぁ、番頭。


【番頭】ハェ・・アレ・・カラダ ガ・・・


【女】いや、いや、いや・・・・


【童】おっかぁ


【女】はっ・・・なんで、お腹に張り付いてた達磨が・・・・


【童】おっかぁ。


【壁の童たち】いいなぁぁ


【童】決めた、この人たちにする。


【壁の童たち】おめでとぉ


【童】ありがとぉ・・・・・・・僕にも、おっかぁ が出来たよ。



【葛葉】くっ、また幻覚か・・・



【大女将】まったく、しょうがないわね!!!役立たずは!!!借金も返せない・・・・隠れても無駄だよ。

役立たずは、飯もマトモにくえないっ・・・っと・・・・

バタバタしなさんなさ、へその緒が絡まっちまうじゃないか・・・まったく、借金の形に入れられた女郎が手間を掛けさせるんじゃないわよ・・・ややこを抱えて お勤めなんて出来るわけないだろ・・・じっとしてな、暴れるな・・・まったく・・


【女】ここは・・・女将さん?


【童】おっかぁ???


【大女将】生きていくためには しょうがないんだよ・・よいしょっと!


【女】や、やめなさい!!


【壁の童たち】ギャァ〜ギャァギャァ〜〜〜


【大女将】こーすれば、生きていけるだろっと・・・んっ・・暴れるなっ・・・・


【女】やめて!!!


【大女将】それで、座敷童にも狙われな・・・い・・・だろ・・っと。


【女】辞めて、やめて!!


【大女将】座敷童に生まれてもらっちゃ困るんだよ、女達にどこか行かれたうちは破産だ!だから・・・こうして おけば・・・っと・・・・


【女】やめて!!!!!もう、殺さないで!!!


【葛葉】これが・・・・


【女】な、なんで、あなたが、ここに・・・


【葛葉】この館に繋ぎとめられていたもの・・・遊郭の時代に始末された赤子の思い・・・あとは・・・・あとは、縁・・・・お前の願いは叶う・・・・・


【女】何をする気なの!!!


【葛葉】こいつは人ならざるモノ・・・あんたの腹を使って出て来るつもりだ・・・・


【女】辞めなさい!! 

みんな、ただ、この世でいきたいだけじゃないの!!!


【壁の童たち】あぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ



【葛葉】ダメだ・・・・人ならざるるモノとは・・・相入れぬ・・・・


【壁の童たち】あぁあぁあぁあぁあぁあぁ


【女】おいで・・・・一緒に産んであげる。


【葛葉】・・・・人ならざる“モノ”を産み落とす気か。

 

【壁の童たち】あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ



【女】私の腹に宿ったものは、すべて、私の ややこです。


【葛葉】・・・・辞めろ、共倒れになるだけだ。


【女】私は、私の ややこを産む・・・・ただそれだけ。


【壁の童たち】あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ



【葛葉】なっ!?達磨を握れ!!



【女】はぁ・・・はぁ・・・・どうして・・・・お腹・・・ややこが・・・血が・・・お腹の中の血が・・・・ややこが・・・・・血が・・ややこが・・・流れる・・・・なんで・・・・・流れて・・・・


【壁の童たち】あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ



【葛葉】くっ・・達磨を握れ・・・耐えろ・・んっ・・・っっ・んっっ・・・・んっ・・離すな・・・

急急如律令、臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前・・・・・・・裏・土御門、葛葉が命じる!!

オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ 

ナウボウ・バキャバテイ・バイセイジャ・グロ・バイチョリヤ・ハラバア・ランジャヤ・タターギャタヤ・アラカテイ・サンミャク・サンボダヤ・タニヤタ・オン・バイセイゼイ・バイセイゼイ・バイセイジャ・サンボドギャテイ・ソワカ!!(地蔵菩薩 真言)



【壁の童たち】アァァァァァァァァァ



【童】いつも、たくさん、お話してくれて、ありがとう。

僕、あなたがいい。

あなただから いい。

あなたが いいんです。



【女】どういたしまして。

私こそ、あなたが、私を選んで、私の所にきてくれて、ありがとう・・・・



【壁の童たち】あぁ・・ぁぁ・・・


 

【女】ごめんなさい。

わたし、あなた達の おっかぁには慣れない。



【葛葉】・・それが、縁(えにし)・・・

これで、人と、人ならざる“モノ”との 絡まりし因果と縁(えにし)が解け(ほどけ)

それぞれの基(もと)へと帰還する。

これで、お前たち、親子の願いが叶った。



【壁の童たち】いってらっしゃい。



【童】みんな、いってきます。


【女】おかえりなさい



〜エピローグ〜


【葛葉】まさか、依頼に来た男が若旦那だったとは、手が込んでるな。

あの お札を通して、あの男に、この顛末を見せたかったんだろうか・・・・

何を想い、何を判断するのか・・・・・

まぁ、何にせよ、これで斎藤さんからの依頼は終わりか。

幕末も終わり、明治も30年を過ぎ、時代は動いている、それでも変わらず壬生浪を貫くか・・・・



おわり